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1996年米国の研究者T・コルボーンらにより興味深い本が出版された。『奪われし未来』というその本は、それまで一部の間でのみ指摘されていた生物の内分泌系を乱す化学物質の存在を初めて世界にアピールしたものであった。いわゆる内分泌擾乱物質(以下環境ホルモン)である。
この環境ホルモンにより、生殖器の奇形や精子数の減少、脳神経障害等生物の生存を脅かすものと指摘されている。その中で歯科の分野に広く用いられているコンポジットレジンやレジン系シーラントについても活発な議論がなされている。これらのレジン系材料の成分の一部に環境ホルモンの一つビスフェノールAが含まれているからだ。
今、世界中の研究機関で様々な研究が行われているが、一致した見解は得られていない。これに対し日常臨床を行う我々が非常に興味を持ったのは当然のことである。環境ホルモンは極微量で生体に作用しそのシステム、影響は未知の部分が多い。しかし環境ホルモンの影響を最も受けるのは、胎児、妊婦、思春期までの子供であるのは想像に難くない。
今回我々はこの様な現状を踏まえレジンに含まれるビスフェノールAの溶出について実験を行った。口腔内で過酷な条件に曝されることを勘案し、市販のコンポジットレジン3種類とレジン系シーラント1種類を、水・湯・唾液・胃酸を想定した塩酸に一定期間浸し、その中に溶出したビスフェノールAを測定した。
結果は今回用いた全ての材料よりビスフェノールAが確認された。特に高温で溶出が多くなる傾向が認められた。ちなみに詳細についてはこの秋、日本歯科保存学会にて発表を行う。
実際レジンによる修復は半永久的ではなく、温度や湿度、化学反応や咀嚼等の物理的刺激により劣化は避けられず、それに伴う口腔内でのビスフェノールA溶出の可能性は更に大きいというのが考えられる。特に、摩耗により常に新鮮面が露出し、また磨耗粉が消化器へ達することを考える必要がある。
現在同様の議論が行われているプラスチック製容器に関する問題について厚生省は、ただちに健康に障害が生じるとは考えられないと結論をだしている。生物はただちに変化しない。また今回の実験によりppb(十億分の一の濃度)の単位で測定することができた。この程度の濃度測定が可能になったのも比較的最近のことである。つまりこの間までは検出限界以下だったのである。現在各機関の示す安全基準は主に過去のデータが基である。
だが現在ビスフェノールAに関し安全基準を下回る極微量においても作用する報告も発表されているのである。
医療という安全性を最も重視すべき分野にもかかわらず未だ現実をないがしろにする風潮を感じる。今回の実験は環境ホルモンの溶出が認められた。少なくとも安全性が完全に確認されるまでは溶出を認めない代替材料を使用すべきであると我々は考える。
(歯科医師 亀井琢正)
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