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サンクトペテルブルグの街角

 

 

 短期間にほんのわずかな土地を見たにすぎないが、抱いていたイメージと異なることの多い旅だった。確かに政治体制、経済は崩壊しているかもしれない。しかしロシアの人々は飢えてはいない。物は豊富でいたって元気である。サンクトペテルブルグで現地案内してくれたマルガリータさんもそんな一人だった。インテリなパワフルおばあさんといった人物である。

 サンタトペテルブルグはロシアの古都である。イサク聖堂をはじめとするロシア正教寺院とエルミタージユ美術舘の他は、古びた巨大ビルと、ネバ川支流のいくつかの運河がとり囲む街である。マルガリータさんは、通訳として来日経験30数回、独特の日本語を縦横無尽にあやつった。「お足もとにお気をつけ下さい」等と言いながら旅行者の心をそらさないツボを心得ている。

 宮殿をそのまま美術館としている壮大なエルミタージュ。その数万点の収蔵物は全部見るのに5年はかかるといわれている。マルガリータさんは、要所をしぼり一つ一つの絵画・彫刻をていねいに説明していく。そんな中ペテルブルグ大学の後輩と思われる女学生が日本人を案内していたが不慣れらしい。一緒に説明を聞いてもよいかとたずねて来た。とんでもないと強い口調で拒絶した。近くに来ることさえ許さなかった。「自分でおやりなさい」と。仕事にプライドとやりがいを持っている。そして午後八時近くになって1時間半もかけて、地下鉄を乗りつぎ自宅へ帰るのだという。

 今、ロシアは変貌している。西側資本が流入している。マフィアの台頭も著しいと聞く。若者は皆ニューリッチ(新興成金)になりたいのだという。限られた情報の中で、平日は都心のアパートに住み、週末、郊外のダーチャ(別荘)で自家菜園を営む静かな生活。ロシア人のそうした生活が変わろうとしている。

 バスの中から建設中の大きなコーラ工場が見えた。マルガリータさんは言う。「あれはロシアでは人気がありません。ケミカルなものですからね。むしろ、ブルーベリーのジュースの方が好まれています。100%ナチュラルでとてもおいしいものです」と。現在のロシアでマルガリータさんのような人がいつまで活躍できるのだろうか。

  小じんまりしたペテルブルクの空港から、30年は経っていそうなプロペラ機でモスクワ・シュレメチェボ空港に着いたのは、午前0時に近かった。20数階の巨大ホテルで指定された部屋へ行ってみると、カードキーが使えない。先住者がいる。フロントの女性に抗議しても「トライ・アゲイン」を繰り返すのみ。全くらちがあかない。お役所仕事である。

 ここに来て初めてなんとはなしにイメージしていたロシア人に会えたと思い感動した。それまで出会ったロシア人は皆余りに親切だった。その日眠りについたのは午前2時をまわっていた。翌朝、目ざめると、10月初旬のモスクワに初雪が降っていた。

「いのち」第18号より  (丸橋歯科「良い歯の会」 平成11年10月15日発行)


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