長寿研究から見る健康と食
辻本仁志
ベストセラーとなった「動的平衡」から引用すると、シェ―ンハイマ―の研究から、アミノ酸に標識をつけた食べ物をマウスに3日間食べさせ、その分子の行方を追ったところ、瞬く間に全身に散らばり、その半分以上が脳、筋肉、消化管、肝臓、脾臓、膵臓、血液などありとあらゆる臓器や組織を構成するタンパク質の一部になったそうだ。そして、3日間マウスの体重は増えていなかった。つまり、体を構成していたタンパク質が捨てられ、新しく入れ替わったのである。その時の食事そのもので私たちの「動的」な体が形作られ、体質を変えてゆく証拠である。
丸橋歯科では生活習慣の乱れから生じる歯周病の患者さんを治癒させてきた。臨床の試行錯誤の中から得た食事内容の大枠は①主食は未精白穀物②ビタミン、ミネラル、食物繊維をしっかりとる(緑黄色野菜、海藻、小魚、大豆製品、ゴマなど)③タンパク質は植物性を中心に(植物性:動物性=6:4)である。当院の食事指導により2週間程度で、治療をしていない歯周病の膿が止まり、歯肉の色が改善した。
免疫力や細胞の活性、体の治癒力を上げてきた当院の食事指導が当然のことながら長寿にもつながることを裏付ける2冊の本がある。それはまさに30年の歴史を持つ良い歯の会が指導してきた食事の内容とほぼ合致するものであった。一つは、近藤正二先生の「日本の長寿村・短命村」である。全国の990カ町村を実際に訪れ、食事内容から生活習慣まで聞き取り調査を行い、長寿、短命と食事との関係を明らかにしている。遺伝や気候、過酷な労働や飲酒が短命の原因だと言われているが、実は食事内容が寿命を決めていたのである。先生の長寿の秘訣を要約すると、塩分を控え、緑黄色野菜、小魚、海藻、大豆を食べること。志摩の海女がいもや麦、野菜や大豆、ゴマ、海藻を取りながら海の幸を食するため長寿で、78歳でも仕事をこなすのに対し、輪島の海女は二度精白した米、魚を多食し、肉も多く食べ、野菜をほとんど食べないため50歳前後で仕事をやめ、短命であるとの記載は象徴的である。もう一つは家森幸男先生の「ついに突き止めた究極の長寿食」である。開発した100%脳卒中を起こすラットにより、魚や大豆タンパク、カルシウム(小魚や乳製品)、マグネシウム(海藻)などを投与することで脳卒中を予防できることを証明した。また、血液と尿で食べたものを正確に分析する手法を開発し、世界の長寿地域を調べた結果、大豆、魚、緑黄色野菜、減塩食、日本食の欠点を補うカルシウム、果物の摂取が長寿に結びついていることを突き止めた。さらにこれらの食は、ストレスや虚血で生じる活性酸素が体の細胞を壊すのを抑え、痴呆等の病気の予防にもなるとしている。伝統的な食事を守ってきたがゆえに長寿であったエクアドルのビルカバンバが脚光を浴び、観光客や都市生活者によってあっという間に食生活が変化し、長寿返上になってしまったことは、我々日本人にも示唆を与える。真実を知り、世界に誇れる日本の食文化を保守することの大切さ、またその欠点を補う方法を学ぶ2冊であった。
この2冊の本について、当院スタッフで勉強会を行なった。今後もより理解を深め、患者さんの指導に役立ててゆきたい。

勉強会の様子。スタッフ全員で共通の認識をもつよい機会となる。
「良い歯の会」機関誌 いのち 第29・30合併号より






